性病検査における核酸増幅検査(NAAT)とは?
PCR法・検体別の精度・偽陰性の原因まで解説

性感染症の検査では、クラミジアや淋菌、マイコプラズマなどの病原体を調べるために、核酸増幅検査(NAAT:Nucleic Acid Amplification Test)が広く用いられています。NAATは病原体のDNAやRNAを増幅して検出する検査法の総称で、PCR法はその代表的な方法のひとつです。少量の病原体でも検出しやすく、無症状感染の診断にも有用であることから、性感染症診療における中心的な検査法となっています。

本記事では、NAATとPCRの違い、PCR検査の原理、感度・特異度、尿・腟・咽頭・直腸など検体別の特徴、偽陰性が起こる原因、Ct値、培養検査との違いまで詳しく解説します。さらに、当院で使用しているGeneXpertによるリアルタイムPCR検査についても紹介し、性感染症検査の結果を正しく理解するためのポイントを整理します。

目次

性感染症診療における核酸増幅検査(NAAT)とは?

核酸増幅検査(NAAT:Nucleic Acid Amplification Test)とは、病原体が持つDNAやRNAなどの遺伝子(核酸)を増幅し、その存在を検出する検査法の総称です。性感染症診療では、クラミジアや淋菌、マイコプラズマなどの病原体を検出する際に広く用いられています。検体中に含まれる病原体の遺伝子量が少ない場合でも、標的となる核酸を増幅することで検出しやすくできる点が大きな特徴です。

一般に「PCR検査」という言葉がよく使われますが、PCR法はNAATに含まれる代表的な検査法のひとつです。NAATにはPCR法のほかにも、TMA法など複数の核酸増幅技術があります。そのため、厳密には「NAAT=PCR」ではなく、NAATという大きな検査カテゴリーの中にPCR法が含まれていると理解すると分かりやすいでしょう。性感染症の検査では、検査機器や検査会社、対象となる病原体によって異なる核酸増幅法が採用されています。

NAATは、抗原検査・抗体検査・培養検査とも検出している対象が異なります。抗原検査は病原体を構成するタンパク質などを、抗体検査は感染に対して体内で作られた抗体を、培養検査は採取した病原体そのものを増殖させて確認する検査です。一方、NAATは病原体の遺伝子を直接検出します。この性質から、性感染症診療では感染の有無を調べる中心的な検査法として利用されていますが、検査時期や採取部位、治療後の残存核酸などによって結果の解釈に注意が必要な場合もあります。

性感染症でNAATが用いられる理由

性感染症診療においてNAATが用いられる最大の理由は、

  • 少量の病原体でも検出しやすい
  • 症状がない感染でも検出できる

というNAATの特性が性感染症の原因となる病原体の検索に向いているからです。

NAATは、検体中に含まれる病原体のDNAやRNAなどの核酸を増幅して検出する検査です。病原体そのものを大量に必要とするわけではないため、感染初期や病原体量が比較的少ない状態でも検出しやすいという特徴があります。特にクラミジアや淋菌のように、症状が軽かったり病原体量が少なかったりする感染症では、高感度に検出できるNAATが診断に適しています。

性感染症には、クラミジアなどのように感染していても症状がほとんど出ないケースがあります。NAATは症状の有無ではなく、採取した検体中に病原体の遺伝子が存在するかを調べるため、無症状感染でも検出が可能です。そのため、症状がない人のスクリーニングや、パートナーが性感染症と診断された場合の検査などにも有用で、感染の見逃しを減らす役割があります。

尿・腟・咽頭・直腸などさまざまな検体で検査可能

性感染症は尿道や腟だけでなく、咽頭や直腸など複数の部位に感染する可能性があります。NAATは尿、腟ぬぐい液、子宮頸管ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、直腸ぬぐい液など、感染部位に応じたさまざまな検体で実施できます。そのため、性行為の内容に応じて検査部位を選択しやすく、尿検査だけでは見逃してしまう咽頭・直腸感染などを調べるうえでも重要です。

クラミジア・淋菌診断では重要な検査法となっている

クラミジアや淋菌は、症状だけでは感染の有無を正確に判断できず、無症状感染も少なくありません。NAATはこれらの病原体の遺伝子を高感度に検出できるため、クラミジア・淋菌感染症の診断において中心的に用いられている検査法です。また、尿だけでなく咽頭や直腸など感染部位ごとの検査にも対応できるため、感染部位を適切に評価し、治療につなげるうえでも重要な役割を担っています。

NAAT・PCR検査で調べられる主な性感染症

NAAT・PCR検査は、病原体のDNAやRNAなどの核酸を検出するため、さまざまな性感染症の診断に利用されています。特にクラミジア・淋菌・マイコプラズマ・ジェニタリウムなどでは、感染部位から採取した検体を用いたNAATが重要な検査法となっています。

ただし、検査できる病原体や検体の種類は、使用する検査機器・試薬によって異なります。また、すべての性感染症をNAATで調べるわけではなく、梅毒やHIVなどでは血液を用いた抗原・抗体検査が一般的です。

感染症・病原体主な検体NAAT・PCR検査の特徴
クラミジア尿、腟、子宮頸管、咽頭、直腸など感染部位の病原体遺伝子を高感度に検出
淋菌尿、腟、子宮頸管、咽頭、直腸など無症状感染や咽頭感染の診断にも用いられる
マイコプラズマ・ジェニタリウム尿、尿道・腟など培養が難しいためNAATによる検出が特に重要
トリコモナス腟分泌物、尿など遺伝子を検出するNAATを利用できる

クラミジア

クラミジア(Chlamydia trachomatis)の診断では、NAATが広く用いられています。尿や腟・子宮頸管の検体だけでなく、感染部位に応じて咽頭や直腸の検体を調べることもできます。無症状感染が多いクラミジアを高感度に検出できることがNAATの大きな利点です。

淋菌

淋菌(Neisseria gonorrhoeae)についても、尿道・腟・子宮頸管・咽頭・直腸などから採取した検体を用いてNAATを行います。特に咽頭や直腸では症状が出ないことも多いため、症状だけでは判断できない感染を調べるうえで重要です。一方、薬剤耐性を詳しく調べる場合には培養検査が必要になることがあります。

マイコプラズマ・ジェニタリウム

マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)は、一般的な細菌培養では検出が難しい病原体です。そのため、病原体の遺伝子を直接検出するNAATが診断上重要な役割を担っています。男性の尿道炎や女性の子宮頸管炎などの原因となり、クラミジア・淋菌陰性でも症状が続く場合に検査が検討されます。

トリコモナス

トリコモナス(Trichomonas vaginalis)は原虫による性感染症で、腟分泌物や尿などを用いたNAATで検出できます。従来は顕微鏡検査や培養検査も行われてきましたが、NAATでは病原体の核酸を検出するため、病原体量が少ない感染でも検出しやすいという特徴があります。

その他の病原体

核酸検査はこのほか、HPV(ヒトパピローマウイルス)などさまざまな病原体の検出にも利用されています。また、検査系によってはウレアプラズマやその他のマイコプラズマを検出できるものもあります。ただし、「遺伝子が検出された=必ず治療が必要」とは限らない病原体もあるため、検査結果は症状や臨床的意義を踏まえて判断することが重要です。

PCR検査の原理|なぜわずかな病原体でも検出できる?

PCR

PCR検査では、まず尿・腟ぬぐい液・咽頭ぬぐい液などの検体から、病原体に含まれるDNAやRNAなどの核酸を取り出します。そのうえで、検出したい病原体に特徴的な遺伝子配列だけを標的として増幅します。もともと検体中に含まれる病原体の量がごく少なくても、遺伝子を繰り返し増やすことで検出可能な量まで増幅できるため、高感度な検査が可能になります。

PCRでは、加熱と冷却を繰り返しながら標的となる遺伝子配列を何度も複製します。1回の反応で増えた遺伝子をさらに次の反応で増やしていくため、理論上は反応を重ねるごとに標的DNAが大きく増加していきます。最終的に、標的遺伝子が一定量以上検出されれば陽性、検出されなければ陰性と判定します。

リアルタイムPCR

現在の性感染症検査では、リアルタイムPCRが用いられることも多くあります。リアルタイムPCRでは、遺伝子が増幅される過程を蛍光シグナルなどを利用して反応中に連続的に測定します。どの段階でシグナルが検出基準を超えたかを確認することで、病原体の遺伝子が存在するかを判定できます。この仕組みによって、少量の病原体でも効率よく検出することができます。

従来のPCRとリアルタイムPCRの違い

難解な解説が続き分かりづらさを感じる方もいるでしょうが、従来型PCR(endpoint PCR/conventional PCR)とリアルタイムPCRとの違いを簡単にまとめます。最大の違いは、

増幅したDNAをいつ・どうやって検出するか

です。

従来型PCRでは、まず標的DNAを増幅し、反応終了後に「本当に目的のDNAが増えているか」を確認します。典型的には増幅産物を電気泳動にかけ、目的のサイズのDNAバンドが出ていれば陽性と判断します。つまり、「40サイクル終わった後に最終結果を見る」というイメージです。

一方、リアルタイムPCRはDNAが増えるたびに発生する蛍光シグナルを各サイクルで測定します。最初は蛍光がほとんどありませんが、DNAが増えるにつれてシグナルが上昇し、あらかじめ設定した閾値を超えた時点をCt値(Cq値)として記録します。そのため、単に陽性・陰性を見るだけでなく、どのくらい早い段階でDNAが検出されたかも確認できます。

一言で表現すると、従来のPCRは「DNAを増やす技術」、リアルタイムPCRは「DNAを増やしながら測るPCR」です。

PCRとNAATは同じもの?

PCRとNATTは同じ意味ではありません。

NAAT(Nucleic Acid Amplification Test)は、病原体が持つDNAやRNAなどの核酸を増幅して検出する検査法の総称です。特定の1種類の検査を指す言葉ではなく、複数の核酸増幅技術をまとめたカテゴリー名です。性感染症診療では、クラミジアや淋菌、マイコプラズマなどの検出に広く利用されています。

PCR(Polymerase Chain Reaction)は、NAATに含まれる代表的な核酸増幅法のひとつです。「NAAT=PCR」ではなく、「NAATという大きな分類の中にPCRが含まれる」という関係になります。PCRでは、温度変化を繰り返しながら標的となるDNA配列を増幅し、病原体の有無を判定します。

核酸増幅検査には、PCR以外にもTMA(Transcription-Mediated Amplification)やSDA(Strand Displacement Amplification)などの方法があります。これらも標的となる核酸を増幅して病原体を検出するという点では共通していますが、増幅の仕組みや反応条件が異なります。そのため、NAATという表現はPCRよりも広い概念を示します。

性感染症におけるNAATの感度・特異度

NAATは性感染症診断のなかでも感度・特異度の高い検査法ですが、「NAATなら何%」と一律に決まっているわけではありません。対象となる病原体、検査法、使用する試薬、尿・腟・咽頭・直腸などの検体、採取方法によって性能は異なります。報告ではクラミジア・淋菌に対するNAATについて、一般に感度90%超、特異度99%以上としています。

病原体NAATの感度の目安NAATの特異度の目安補足
クラミジア一般に90%以上一般に99%以上検体部位や検査系で変動
淋菌一般に90%以上一般に99%以上咽頭では一部検査系で他の Neisseria 属との交差反応に注意
マイコプラズマ約78~99%約98~100%検体種類により感度77.8~98.9%、特異度97.8~99.6%
ウレアプラズマ約89~97%約87~100%検体部位や判定基準で変動
トリコモナス約95~100%約95~100%使用する検体によって異なる

※感度・特異度は検査機器、核酸増幅法、対象集団、検体の種類・採取方法などによって異なります。
上記は代表的な検査・研究で報告された目安であり、すべてのNAATに共通する数値ではありません。

感度とは「感染している人を陽性と判定できる割合」

感度(sensitivity)とは、実際に感染している人のうち、検査で正しく陽性と判定できる割合です。「真陽性 ÷(真陽性+偽陰性)」で計算されます。例えば感度95%の検査であれば、理論上、感染者100人のうち約95人を陽性として検出できる一方、約5人は偽陰性となる可能性があります。

性感染症のNAATは高感度ですが、感度は検査機器だけで決まるものではありません。感染から検査までの期間、病原体量、採取する部位、検体採取の質などによって実臨床での検出率は変化します。例えば尿道感染しか調べていなければ、咽頭や直腸だけに存在する感染を検出することはできません。

クラミジア・淋菌について、NAATの感度について一般に90%を大きく上回るとしていますが、検査成績は対象集団や検体、比較基準によって変動するため、単一の数値だけで評価すべきではないとも指摘しています。

特異度とは「感染していない人を陰性と判定できる割合」

特異度(specificity)とは、実際には感染していない人のうち、正しく陰性と判定できる割合です。「真陰性 ÷(真陰性+偽陽性)」で計算されます。例えば特異度99%であれば、感染していない1,000人を検査した場合、理論上約990人が正しく陰性となり、約10人では偽陽性が生じる可能性があります。

クラミジア・淋菌のNAATは非常に特異度が高く、一般に99%以上とされています。ただし、コンタミネーションや検査系による交差反応などによって偽陽性が生じる可能性は完全には排除できません。特に咽頭の淋菌NAATでは、検査法によっては非淋菌性の Neisseria 属との交差反応が問題となる場合があります。

感度・特異度が高くても100%ではない

NAATは非常に優れた検査ですが、陰性だから感染を100%否定できる、陽性だから100%感染している、という検査ではありません。感度が100%未満であれば偽陰性が、特異度が100%未満であれば偽陽性が一定の確率で生じます。

偽陰性の原因としては、感染成立から検査までの期間が短く病原体量が少ない、感染部位とは異なる場所を検査した、検体の採取量が不十分だった、検体中にPCR反応を阻害する物質が含まれていた場合などが考えられます。一方、偽陽性にはコンタミネーションや一部の検査系における交差反応などが関係することがあります。

さらに、検査の「感度・特異度」と実際の診療で知りたい「この陽性結果が本当に感染を意味する確率」は別の指標です。NAATの感度・特異度は評価した集団、比較方法、検体などによって変動するため、添付文書などの数値をそのまま普遍的な性能として扱うべきではないとしています。

陽性的中率・陰性的中率は感染率によって変わる

陽性的中率(PPV:Positive Predictive Value)は「陽性と判定された人が実際に感染している確率」陰性的中率(NPV:Negative Predictive Value)は「陰性と判定された人が実際に感染していない確率」です。感度・特異度とは異なり、これらは検査を受ける集団における感染率(有病率)によって大きく変化します。

例えば仮に感度95%・特異度99%の検査を考えます。感染率10%の集団では陽性的中率は約91%ですが、感染率1%の集団では陽性的中率は約49%まで低下します。同じ検査を使用しているにもかかわらず、感染頻度の低い集団ほど「陽性者に占める偽陽性の割合」が相対的に大きくなるためです。

反対に、感染率が低い集団では陰性的中率は非常に高くなります。このため検査結果を医学的に解釈するときには、感度・特異度だけでなく、感染機会や症状などから考えられる検査前確率(pretest probability)も合わせて考えることが重要です。つまり、NAATの結果は単なる「陽性・陰性」ではなく、患者背景を含めて評価する必要があります。

陽性的中率・陰性的中率は母集団の有病率で値が変化します。

検体によってPCR検査の精度は異なる?

PCR・NAAT検査の精度は、どの部位から、どのような方法で検体を採取するかによって変わります男性の尿道クラミジア・淋菌検査では、一般に排尿の最初の部分である初尿(first-catch urine)が用いられます。女性では尿検体よりも腟ぬぐい液が高い検出感度を示すことが多く、クラミジア・淋菌のNAATでは有用な検体として位置づけられています。検体採取量が不十分だったり、適切な部位を採取できていなかったりすると、病原体が存在していても偽陰性となる可能性があります。

咽頭に感染している場合には、咽頭ぬぐい液もしくはうがい液を用いたNAATが行われます。また、肛門性交などにより直腸感染が疑われる場合には、直腸ぬぐい液を採取して検査します。クラミジアや淋菌は尿道・腟だけでなく咽頭や直腸にも感染し、これらの部位では無症状のことも少なくありません。

そのため重要なのは、「PCR検査を受けたか」だけではなく、「感染した可能性のある部位を検査できているか」という点です。例えば咽頭だけに淋菌が感染している人が尿検査しか受けなければ、尿のPCRが陰性でも咽頭感染を否定することはできません。同様に直腸感染も、尿や腟の検査だけでは見逃す可能性があります。性行為の内容や感染機会を踏まえて適切な検体を選択することが、NAATの高い検査性能を生かすうえで重要です。

性器の感染が咽頭や直腸に移動することはありません。物理的な接触のあった部位に感染が成立します。

NAAT・PCR検査で偽陰性が起こる主な原因

NAAT・PCR検査は高感度な検査ですが、感染していたら必ず陽性になるわけではありません。検査時期が早すぎる場合や病原体量が少ない場合、感染部位と異なる場所から検体を採取した場合などには、実際には感染していても陰性と判定される「偽陰性」が起こることがあります。特に性感染症では、感染部位や検体採取方法が検査精度に大きく影響するため、結果を解釈する際にはこれらの要因を考慮することが重要です。

NAAT・PCR検査で偽陰性が起こる原因
  • 感染してから検査までの期間が短すぎる
  • 病原体量が少ない
  • 適切な部位から検体を採取できていない
  • 検体採取方法が不十分
  • 抗菌薬の服用によって病原体量が減少している
  • 検体の保存・輸送条件などの影響

このように、偽陰性は単に「検査の性能が低い」ために起こるわけではなく、検査を受けるタイミング、病原体量、採取部位、採取手技、治療歴、検体管理など複数の要因が関係します。そのため、感染機会から間もない時期に検査を受けた場合や、症状・感染機会があるにもかかわらず陰性だった場合には、一定期間をあけた再検査や別部位の検査を検討することがあります。

また、抗菌薬を服用している場合には病原体量が減少し、一時的に検出しにくくなる可能性があります。さらに、咽頭や直腸など感染部位が複数存在し得る性感染症では、1か所の検査が陰性でも他の部位の感染までは否定できません。NAAT・PCR検査の結果は、検査時期や性行為の内容、症状、治療歴などと合わせて総合的に判断することが重要です。

治療後のPCR検査では「残存核酸」に注意する

NAAT・PCR検査は病原体のDNAやRNAを検出する検査であるため、治療によって病原体そのものが死滅した後でも、分解されずに残った核酸を検出して陽性となることがあります。そのため、治療直後のPCR陽性は必ずしも治療失敗や感染の持続を意味しません。特にクラミジアなどでは、治療後しばらくの間は残存核酸によって陽性が続くことがあるため、治癒判定を目的とした再検査は適切な時期に行う必要があります。

また、治癒判定に適した検査時期は性感染症ごとに異なります。早すぎる再検査では残存核酸の影響を受けやすい一方、時間が経過してから再び陽性となった場合には、治療失敗だけでなく再感染も考える必要があります。したがって、治療後のPCR結果は検査時期、治療内容、再度の性的接触の有無などを踏まえ、「残存核酸」「持続感染」「再感染」を区別しながら解釈することが重要です。

例えばクラミジアや淋菌は治療終了後、3週間後(最低でも2週間)の陰性確認検査が推奨されています。それ未満で検査してしまうと、クラミジアや淋菌の死骸を拾って陽性と出るため「治療が効いていないのか」「死菌を拾っているだけなのか」が判断が難しくなります。それで3週間という期間を設けることが重要とされています。

Ct値とは?リアルタイムPCR結果の見方

Ct値(Cycle threshold)は、リアルタイムPCRで標的遺伝子の増幅シグナルが一定の基準値を超えるまでに要したサイクル数を示します。一般に、検体中の標的核酸量が多いほど早い段階で検出されるためCt値は低くなり、核酸量が少ないほどCt値は高くなる傾向があります。

ただし、Ct値は病原体量の目安にはなっても、感染力や重症度を直接示す値ではありません。特に性感染症では、採取部位、採取量、感染時期、治療後の残存核酸などによってCt値が変化するため、Ct値だけで感染の程度を判断することはできません。

また、Ct値は使用する検査機器や試薬、検体の種類、前処理方法、判定基準によって異なります。そのため、異なる検査機器や別施設で得られたCt値を単純に比較することは適切ではありません。Ct値は、あくまでその検査系の中で結果を解釈するための補助的な指標として扱います。

  • Ct値が低い:少ない増幅回数で基準値を超えた→検体の菌量が多かった
  • Ct値が高い:沢山増幅してようやく基準値を超えた→検体の菌量が少なかった

PCR検査と培養検査はどう使い分ける?

PCR・NAAT検査と培養検査は、どちらも性感染症の診断に用いられますが、検出しているものと得られる情報が異なります。PCR・NAATは病原体のDNAやRNAなどの遺伝子を検出するため高感度に感染の有無を調べやすい一方、培養検査は生きた病原体を実際に増殖させて確認します。そのため、単純な感染確認ではPCR・NAATが有用ですが、薬剤耐性や治療薬の選択まで評価したい場合には培養検査が重要になります。

比較項目PCR・NAAT検査培養検査
検出するもの病原体のDNA・RNAなどの遺伝子生きた病原体
検査の原理標的となる核酸を増幅して検出病原体を培地上で増殖させて確認
主な目的感染の有無を高感度に調べる生菌の確認、菌の性状や薬剤感受性の評価
感度一般に高い病原体や検体条件によってはPCRより低い
結果までの時間比較的短い数日程度かかる
病原体が少ない場合少量でも検出しやすい増殖できないと陰性になることがある
治療後の影響死滅した病原体の残存核酸を
検出することがある
生きた病原体が存在しなければ
通常は増殖しない
薬剤耐性の評価通常のPCRだけでは評価できない薬剤感受性検査を行うことで評価可能
淋菌での役割感染の診断に有用治療失敗例などで薬剤感受性を
調べる際に重要
主な弱点生菌か死菌かを区別できない検体保存・輸送条件の影響を受けやすい

培養検査について

培養検査は、採取した検体を専用の培地で育て、生きた病原体が増殖するかを確認する検査です。PCR・NAATのように遺伝子断片を検出するのではなく、実際に増殖可能な菌を確認するため、治療後に残った死菌由来の核酸の影響を受けにくいという特徴があります。一方で、病原体が少ない場合や保存・輸送条件が不適切な場合には増殖せず、陰性となることがあります。

また、培養で病原体を分離できれば、どの抗菌薬が効きやすいかを調べる薬剤感受性検査につなげることができます。特に淋菌では薬剤耐性が問題となるため、治療後も陽性が続く場合や治療失敗が疑われる場合には、培養検査と薬剤感受性検査が重要になることがあります。

東京検査クリニックで使用しているGeneXpertとは?

GeneXpertはカートリッジ式のリアルタイムPCR検査装置

GeneXpertは、専用カートリッジを用いて核酸増幅検査を行う自動化PCRプラットフォームです。性感染症領域では、クラミジア・淋菌などを対象としたXpert検査があり、リアルタイムPCRによって標的遺伝子の増幅と検出を行います。検体を専用カートリッジにセットして装置に装着することで検査を進められるため、従来のPCR検査と比べて操作工程が簡略化されている点が特徴です。

検体処理から遺伝子増幅・検出まで装置内で自動化されている

GeneXpertでは、検体を専用カートリッジに入れた後、核酸の抽出・精製、PCR反応液との混合、遺伝子増幅、蛍光シグナルによる検出までの工程が装置内で自動化されています。手作業による工程を減らせるため、検査室で行う一般的なPCRと比べて操作が標準化されやすく、院内で迅速に結果を得やすいという利点があります。また、カートリッジ内で反応が完結する閉鎖系であることから、増幅産物によるコンタミネーションのリスクを抑えやすい点も特徴です。

院内PCR検査と外注検査の違い

比較項目院内PCR検査外注検査
検査を行う場所医療機関内外部の検査センター
結果までの時間最短90分3日後
検体輸送不要検査センターまで輸送
検査工程院内で実施検査センターで一括で実施
メリット検査・結果説明・治療までを
短時間でつなげやすい
大規模設備を利用できる
デメリット対応できる病原体や検体が
院内機器・試薬に限定される
時間がかかる
向いている場面迅速な診断・早期治療が必要な場合院内で対応していない検査、
特殊検査、幅広い項目の検査

院内PCR検査の大きな利点は、検体を外部へ輸送する時間がなく、診察から検査、結果説明、必要に応じた治療までを短時間で完結しやすいことです。一方、外注検査は結果まで時間を要するものの、院内機器では対応できない病原体や特殊な検査まで幅広く実施できるという利点があります。両者は優劣ではなく、検査項目や必要な結果判明速度に応じて使い分けることが重要です。

東京検査クリニックでのGeneXpert検査

①GeneXpert本体

②専用カートリッジ

③検体処理

④検査結果レポート

まとめ|NAAT・PCR検査は性感染症診断の中心的な検査法

NAAT・PCR検査は、病原体のDNAやRNAを増幅して検出することで、少量の病原体や無症状感染も捉えやすい検査法です。クラミジアや淋菌、マイコプラズマなどの診断で重要な役割を担っています。一方で、検査時期や採取部位、残存核酸、検体条件などによって偽陰性・偽陽性が起こる可能性もあります。検査結果は、感染機会や症状、治療歴と合わせて総合的に判断することが大切です。

記事監修:島田航 泌尿器科専門医

2018年東京科学大学(旧東京医科歯科大学)医学部を卒業後、東京科学大学、JAとりで総合医療センター、土浦協同病院、神栖済生会病院にて泌尿器科を歴任。性感染症外来・泌尿器科外来に従事。

所属学会:日本泌尿器科学会/日本生殖医学会/日本泌尿器内視鏡ロボティクス学会/日本産業衛生学会

▪️参考文献

1)Papp JR, Schachter J, Gaydos CA, Van Der Pol B. Recommendations for the Laboratory-Based Detection of Chlamydia trachomatis and Neisseria gonorrhoeae—2014. MMWR Recomm Rep. 2014;63(RR-2):1-19.

2)Aaron KJ, Griner S, Footman A, Boutwell A, Van Der Pol B. Vaginal Swab vs Urine for Detection of Chlamydia trachomatis, Neisseria gonorrhoeae, and Trichomonas vaginalis: A Meta-Analysis. Ann Fam Med. 2023;21(2):172-179.

3)Gaydos CA, Van Der Pol B, Jett-Goheen M, et al. Performance of the Cepheid CT/NG Xpert Rapid PCR Test for Detection of Chlamydia trachomatis and Neisseria gonorrhoeae. J Clin Microbiol. 2013;51(6):1666-1672.

4)Gaydos CA, Manhart LE, Taylor SN, et al. Molecular Testing for Mycoplasma genitalium in the United States: Results from the AMES Prospective Multicenter Clinical Study. J Clin Microbiol. 2019;57(11):e01125-19.

5)Wind CM, Schim van der Loeff MF, Unemo M, Schuurman R, van Dam AP, de Vries HJC. Time to clearance of Chlamydia trachomatis RNA and DNA after treatment in patients coinfected with Neisseria gonorrhoeae: a prospective cohort study. BMC Infect Dis. 2016;16:554.

目次