マイコプラズマ・ジェニタリウムが治らない?
薬剤耐性と治療戦略を解説

マイコプラズマ・ジェニタリウムは、尿道炎や子宮頸管炎などの原因となる性感染症の一つです。治療には抗菌薬を使用しますが、近年はマクロライド系やキノロン系抗菌薬に対する薬剤耐性が問題となっており、「薬を飲んだのに治らない」「何度も陽性になる」といったケースもみられます。

特にマイコプラズマ・ジェニタリウムは、一般的な細菌と異なり細胞壁を持たないため、ペニシリン系やセフェム系抗菌薬が効きません。さらに、以前は有効だったアジスロマイシンやモキシフロキサシンでも治療に失敗することがあり、現在は薬剤耐性を考慮した段階的な治療戦略が重要になっています。

この記事では、マイコプラズマ・ジェニタリウムがなぜ治りにくいのか、マクロライド耐性・キノロン耐性とは何か、ドキシサイクリンを用いた逐次治療、MRMs検査、治療後も陽性が続く場合の対応まで、わかりやすく解説します。

目次

マイコプラズマ・ジェニタリウムは
なぜ治りにくい?

結論からいうと、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium:M. genitalium)が治りにくい最大の理由は、抗菌薬に対する薬剤耐性が進んでおり、使用できる治療薬が限られているためです。日本性感染症学会の「性感染症 診断・治療ガイドライン2026」でも、M. genitaliumでは薬剤耐性化が進行し、有効な抗菌薬が大きく変化していることが示されています。

M. genitaliumは細胞壁を持たない細菌であるため、ペニシリン系やセフェム系など、細胞壁を標的とする抗菌薬は効果が期待できません。さらに、従来よく使用されてきたアジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬に対する耐性が世界的に増加しており、マクロライド耐性菌では通常の治療を行っても菌が残ることがあります。フルオロキノロン系抗菌薬についても耐性菌が報告されており、「抗菌薬を飲めば必ず治る」とはいえない感染症になっています。

しかし、「マイコプラズマ・ジェニタリウムが治らない=治療そのものが不可能」というわけではありません。 重要なのは、同じ抗菌薬を漫然と繰り返すのではなく、過去に使用した薬剤や治療経過、薬剤耐性の可能性、再感染の有無などを整理し、適切な治療戦略を立てることです。現在は、ドキシサイクリンで菌量を減らしたうえで、その後の抗菌薬を選択する段階的な治療(sequential therapy)や、可能であれば薬剤耐性を考慮した治療が重要とされています。

マイコプラズマ・ジェニタリウムの
薬剤耐性とは?

マイコプラズマ・ジェニタリウムは、主に尿道や子宮頸部などの粘膜に感染する性感染症の原因菌です。一般的な細菌と異なり細胞壁を持たないことが大きな特徴で、細胞壁の合成を阻害するペニシリン系やセフェム系などのβラクタム系抗菌薬は基本的に効果がありません。また、ゲノムが非常に小さく代謝機能も限られており、増殖が極めて遅いため、通常の細菌培養による薬剤感受性試験を日常診療で行うことも困難です。

そのため、マイコプラズマ・ジェニタリウムの治療では、主にマクロライド系抗菌薬キノロン系抗菌薬が用いられてきました。しかし近年は、これらの抗菌薬が作用する部位に遺伝子変異を起こした菌が増えています。つまり、抗菌薬そのものを分解するというよりも、「抗菌薬が結合する標的の形を変えることで、薬を効きにくくする」ことが薬剤耐性の中心的な機序です。特に問題となっているのが、マクロライド耐性とキノロン耐性です。

マクロライド耐性

マイコプラズマ・ジェニタリウムの治療では、以前はアジスロマイシン(ジスロマック)が広く使用されていました。実際、2009年より前に行われた研究をまとめた解析では、アジスロマイシン1gによる治療で約85%の患者さんから菌が消失していました。ところが2009年以降の研究では治癒率が約67%まで低下しており、その後の研究では50%台の治癒率も報告されています。

引用 – The Efficacy of Azithromycin for the Treatment of Genital Mycoplasma genitalium: A Systematic Review and Meta-analysis

つまり、以前であれば「アジスロマイシンを服用すれば多くの患者さんが治る」と考えられていましたが、現在ではアジスロマイシンだけでは治らないマイコプラズマ・ジェニタリウムが珍しくありません。

さらに問題なのは、もともと耐性菌に感染しているケースだけではなく、アジスロマイシンによる治療を行う過程で耐性菌が選択されることがある点です。CDCでは、マクロライド感受性菌にアジスロマイシン1gを使用した場合でも、約10~12%で耐性菌が選択されると報告しています。そのため現在では、アジスロマイシン1gを単回投与する治療は推奨されていません。

引用 – CDC – Mycoplasma genitalium

キノロン耐性

マクロライド耐性菌に対する有力な治療薬として使用されてきたのが、モキシフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬です。モキシフロキサシンはかつて非常に高い治療効果を示していました。研究をまとめたメタ解析では、2010年以前の報告では治癒率はほぼ100%でした。しかし2010年以降では約89%まで低下し、キノロン系抗菌薬でも治療に失敗する症例が報告されるようになりました。

引用 – Meta-analysis of the efficacy of moxifloxacin in treating Mycoplasma genitalium infection

さらに最近のオーストラリアの大規模な診療データでは、モキシフロキサシンの治療成功率が2015年の100%から、2023年には約79%まで低下したことが報告されています。ただし、これは特定地域・施設のデータであり、そのまま日本全体の治癒率を示すものではありません。

引用 – Declining Efficacy of Moxifloxacin for Mycoplasma genitalium Infection: Time for Fluoroquinolone Resistance-Guided Therapy?

このように、「マクロライドが効かなければキノロンを使えば必ず治る」という状況でもなくなりつつあります。 マクロライド耐性とキノロン耐性を同時に持つ菌も存在するため、マイコプラズマ・ジェニタリウムでは、使用する抗菌薬を適切に選択して治療することが重要になっています。

マイコプラズマ・ジェニタリウムの
治療戦略

マイコプラズマ・ジェニタリウムの治療では、最初から1種類の抗菌薬だけで完全に除菌しようとするのではなく、まずドキシサイクリンで菌量を減らし、その後に別の抗菌薬で残った菌を除菌する「段階的な治療」が重要です。

現在の海外ガイドラインでは、薬剤耐性検査が可能であれば、その結果に応じて後半の抗菌薬を選ぶ耐性誘導型の逐次治療が推奨されています。CDCでは、この方法による治癒率は90%を超えるとされています。

引用 – CDC – Mycoplasma genitalium

最初にドキシサイクリンを使用する理由

ドキシサイクリン単剤では、マイコプラズマ・ジェニタリウムを完全に除菌できる割合は約30~45%と高くありません。一方で、菌に対して一定の抗菌作用があるため、治療前と比較して体内の菌量を大きく減らすことができます。ドキシサイクリンは、マイコプラズマ・ジェニタリウムのタンパク質合成を抑えて増殖を止めることで作用します。完全に菌を排除できなくても、菌が増えにくい状態を作ることで、感染部位に存在する菌の総数を減らしていきます。

ここが重要で、菌量を減らしてから次の抗菌薬を使用すると、後半の薬が処理しなければならない菌の数が少なくなるため、除菌しやすくなります。 また、多数の菌が存在する状態で強力な抗菌薬を使用する場合と比べ、耐性菌が生き残って選択される可能性を抑えることも期待されています。

ドキシサイクリン=「まず菌量を減らして、次の抗菌薬が効きやすい状態を作る薬」として重要

その後の抗菌薬をどう選ぶ?

ドキシサイクリンで菌量を減らした後は、マクロライド耐性関連変異(MRMs:macrolide resistance mutations)の有無によって、次に使用する抗菌薬を選択するのが基本的な考え方です。日本性感染症学会の「性感染症 診断・治療ガイドライン2026」でも、海外ではMRMsを確認したうえで治療薬を選択する逐次治療が推奨されているとしています。

<MRMsの有無によりその後に使用する抗菌薬を選択>

スクロールできます
MRMs
(マクロライド耐性関連変異)
治療方針代表的な治療例報告されている治癒率
MRMsなしマクロライド有効の可能性が
高いため、AZMを選択
DOXY → AZM約94.8〜95.4%
MRMsありマクロライド耐性が想定
されるため、MFLXを選択
DOXY → MFLX約92.0%
MRMsを検査できないマクロライド耐性の可能性を
考慮し、キノロン系を選択
海外:DOXY → MFLX
日本:DOXY→ STFX
耐性状況により変動

引用 – Outcomes of Resistance-guided Sequential Treatment of Mycoplasma genitalium Infections: A Prospective Evaluation
引用 – 日本感染症学会 「性感染症 診断・治療ガイドライン2026」

薬剤名について
  • DOXY:ドキシサイクリン
  • MINO:ミノマイシン
  • AZM:アジスロマイシン
  • MFLX:モキシフロキサシン
  • STFX:シタフロキサシン

STFXを用いた治療についても、MRMs陽性例に「ドキシサイクリン→STFX」を行った前向き研究では92.2%が治癒しています。また、日本で行われたSTFX 7日間治療の前向き研究では全体の治癒率は87.8%でした。ただし、近年はキノロン耐性も増えており、治癒率は感染している菌の耐性パターンによって大きく変わります。

引用 – Outcomes of Resistance-guided Sequential Treatment of Mycoplasma genitalium Infections: A Prospective Evaluation

したがって、治療戦略を単純化すると、「DOXYで菌量を減らす → MRMs陰性ならAZM、MRMs陽性ならMFLX、MRMsを調べられない場合はMFLXまたは日本ではSTFXを選択する」という流れになります。日本ではDOXY→STFXが実用的な選択肢となっています。一方で、2026年版ガイドラインは、現在では95%以上の治癒率を安定して保証できる治療法はないともしており、治療後の効果判定まで含めて管理することが重要です。

薬剤耐性はどうやって調べる?

マイコプラズマ・ジェニタリウムは非常に増殖が遅く、培養には数か月かかることもあるため、一般診療で培養による薬剤感受性試験を行うのは現実的ではありません。

そこで有用なのが、遺伝子検査によってマクロライド耐性関連変異(MRMs)の有無を調べる方法です。MRMsはアジスロマイシンの治療失敗と強く関連しており、検査可能であれば、MRMs陰性ならAZM陽性ならMFLXなどへ治療を振り分ける耐性ガイド下治療に役立ちます。一方、MRMs検査はすべての医療機関で実施できる検査ではないため、実際には検査環境や費用、結果が出るまでの時間なども考慮し、実施可能であれば行う価値が高い検査と考えられます。

治療後も陽性・症状が残る場合は
どうする?

マイコプラズマ・ジェニタリウムの治療後も陽性が続く、あるいは排尿時痛や尿道違和感などの症状が残る場合には、薬剤耐性による治療失敗、再感染、あるいは菌が消失した後も炎症だけが残っている可能性を分けて考える必要があります。

治療失敗が疑われる場合は、同じ抗菌薬を漫然と繰り返すのではなく、可能であればMRMsなどの耐性検査や過去の治療歴を確認し、別系統の抗菌薬への変更を検討します。また、未治療のパートナーとの性交による再感染も重要な原因となるため、パートナーの検査・治療も考慮します。一方で、症状が残っている=マイコプラズマ・ジェニタリウムが残っているとは限りません。 尿道炎では菌が消失した後もしばらく違和感が続くことがあり、症状だけを根拠に抗菌薬を追加することは推奨されません。再検査で陽性が確認された場合や、尿道炎・子宮頸管炎などの客観的な炎症所見が続く場合に、治療失敗として次の治療を検討します。

なお、治癒確認検査(Test of Cure)を行う場合は、治療終了直後ではなく一定期間を空けてNAAT/PCRで確認することが重要です。早すぎる検査では死菌由来の核酸を検出する可能性があるため、治療法によっては治療終了から3週間以降の確認が用いられます。

まとめ|マイコプラズマ・ジェニタリウムに対しては薬剤耐性を考慮した治療戦略が重要

マイコプラズマ・ジェニタリウムは、マクロライド系やキノロン系抗菌薬への耐性が問題となっており、1種類の抗菌薬だけでは治療が難しいことがあります。まずドキシサイクリンで菌量を減らし、その後にMRMsの有無や治療歴を踏まえて適切な抗菌薬を選択することが重要です。治療後も陽性が続く場合は、耐性菌や再感染を考慮し、同じ抗菌薬を漫然と繰り返さず治療方針を見直す必要があります。

記事監修:島田航 泌尿器科専門医

2018年東京科学大学(旧東京医科歯科大学)医学部を卒業後、東京科学大学、JAとりで総合医療センター、土浦協同病院、神栖済生会病院にて泌尿器科を歴任。性感染症外来・泌尿器科外来に従事。

所属学会:日本泌尿器科学会/日本生殖医学会/日本泌尿器内視鏡ロボティクス学会/日本産業衛生学会

▪️参考文献

1)Lau A, Bradshaw CS, Lewis D, et al. The efficacy of azithromycin for the treatment of genital Mycoplasma genitalium: a systematic review and meta-analysis. Clin Infect Dis. 2015;61(9):1389-1399.

2)Li Y, Le WJ, Li S, Cao YP, Su XH. Meta-analysis of the efficacy of moxifloxacin in treating Mycoplasma genitalium infection. Int J STD AIDS. 2017;28(11):1106-1114.

3)Read TRH, Fairley CK, Murray GL, et al. Outcomes of resistance-guided sequential treatment of Mycoplasma genitalium infections: a prospective evaluation. Clin Infect Dis. 2019;68(4):554-560.

4)Durukan D, Read TRH, Murray G, et al. Resistance-guided antimicrobial therapy using doxycycline-moxifloxacin and doxycycline-2.5 g azithromycin for the treatment of Mycoplasma genitalium infection: efficacy and tolerability. Clin Infect Dis. 2020;71(6):1461-1468.

5)Deguchi T, Ito S, Yasuda M, et al. Surveillance of the prevalence of macrolide and/or fluoroquinolone resistance-associated mutations in Mycoplasma genitalium in Japan. J Infect Chemother. 2018;24(11):861-867.

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