海外旅行・出張前に性病予防薬を準備できる?
Doxy-PEPによる梅毒・クラミジア・淋菌の予防を解説

海外旅行や海外出張を控えている方の中には、「現地で性行為の機会があるかもしれない」「もしものために性病予防薬を準備しておきたい」と考える方もいるでしょう。性感染症の中には、性行為後に抗菌薬を服用することで感染リスクを下げられるものがあります。その代表的な方法がDoxy-PEP(ドキシペップ)です。
この記事では、海外旅行・出張前にDoxy-PEPを準備できるのか、どの性感染症に有効なのか、具体的な使い方や旅行中の注意点まで、わかりやすく解説します。

海外旅行・出張前に性病予防薬を準備することはできる?
海外旅行や海外出張の前に医療機関へ相談し、性感染症の予防薬をあらかじめ準備しておくことは可能です。 代表的なのが、性行為後にドキシサイクリンを服用するDoxy-PEP(ドキシペップ)です。性行為後72時間以内に200mg(100mg錠を2錠)を服用することで、梅毒・クラミジア・淋菌の感染リスクを下げることができます。
海外の臨床試験では、Doxy-PEPを使用しなかった人と比べて、クラミジアは約88%、梅毒は約87%、淋菌は約55%発生率が低下したと報告されています。ただし、これは感染を完全に防ぐという意味ではなく、あくまで感染リスクを下げる方法です。
また、Doxy-PEPではHIV・性器ヘルペス・HPVなどは予防できません。 HIVにはPrEPという別の予防方法があり、渡航先や性行為の予定、過去の性感染症歴に応じて、出発前に自分に合った予防方法を準備しておくことが重要です。
性病予防薬「Doxy-PEP」とは?

Doxy-PEP(ドキシペップ)は、抗菌薬であるドキシサイクリンを性行為後に服用し、細菌性性感染症の感染リスクを下げる予防方法です。主にクラミジア、梅毒、淋菌に対する予防効果が研究されており、海外では性感染症リスクが高い人を中心に利用されています。
Doxy-PEPでは、性感染症への曝露リスクがある性行為のあと、できるだけ早く、遅くとも72時間以内にドキシサイクリン200mgを服用します。また、同じ24時間以内に複数回の性行為があった場合でも、その都度服用するのではなく、24時間以内の服用量は200mgを超えないようにします。
ドキシサイクリンは商品名をビブラマイシン®︎であり、こちらの名前で覚えている方も多くおられますが、中身はどちらもドキシサイクリンとなります。日本ではドキシサイクリン100mgが流通しており、1回のDoxy-PEPは2錠を服用することになります。
Doxy-PEPで予防できる性病
Doxy-PEPを服用することで具体的に予防効果が証明されているのは梅毒・クラミジア・淋菌になります。全ての性感染症を予防する万能薬ではありませんが、世界的に見ても感染者数の多い性感染症(=自身も海外で感染する確率が高い性病)に対して効果があるため、重要な予防薬と位置付けされています。
<Doxy-PEPで予防できる性感染症>
| 性感染症 | Doxy-PEPによる予防 |
|---|---|
| 梅毒 | ○ |
| クラミジア | ○ |
| 淋病 | △ |
| HIV | × |
| 性器ヘルペス | × |
| HPV | × |
梅毒
梅毒は、日本でも近年報告数が高い水準で推移している性感染症です。世界的にもWHOは、2022年に15〜49歳で約800万人の新規感染があったと推計しています。日本でも東京都を中心に多数の届出が続いており、決して珍しい感染症ではありません。初期には痛みのないしこりや発疹が出ることがありますが、症状が自然に消える時期もあり、感染に気づかないまま他人へうつしてしまうことがあります。こうした背景から、感染機会が増える旅行・出張時には、予防という考え方が重要になります。
引用 – Sexually transmitted infections – Technical work
クラミジア
クラミジアは、世界で最も多い細菌性性感染症です。WHOによると、2020年には15〜49歳で年間約1億2,850万人の新規感染が推計されており、女性では約4.0%、男性では約2.5%が感染していると推定されています。特に問題なのは、男女ともに無症状のことが多い点です。症状がないため感染に気づかず、知らないうちにパートナーへ感染させるケースも少なくありません。海外で新しいパートナーとの性行為がある場合にも、現実的に注意したい感染症のひとつです。
引用 – World Health Organization – Chlamydia
淋病(淋菌)
淋病も世界中で広くみられる代表的な性感染症で、WHOは2020年に年間約8,240万人の新規感染があったと推計しています。男性では強い排尿痛や膿が出ることがありますが、女性や咽頭感染では症状が乏しいケースもあり、感染に気づかないまま広がることがあります。また、淋菌では抗菌薬への薬剤耐性が世界的な問題となっており、治療できる抗菌薬が限られてきていることも特徴です。感染そのものを避けるという観点からも、予防の重要性が高い性感染症といえます。
引用 – Sexually transmitted infections (STIs)
海外旅行・出張でDoxy-PEPを
使うときの注意点
Doxy-PEPは海外旅行・出張中にも使用できますが、ドキシサイクリン特有の副作用や飲み合わせ、海外への医薬品持ち込みには注意が必要です。特に長時間のフライトや強い日差しなど、旅行中ならではの状況も考えて準備しておきましょう。
吐き気・胃腸症状・食道炎などの副作用
ドキシサイクリンでは、吐き気、腹痛、下痢などの胃腸症状がみられることがあります。また、錠剤が食道にとどまると食道炎や食道潰瘍を起こすことがあるため、服用時には十分な量の水と一緒に飲むことが大切です。報告では、食事とともに十分な水で服用し、服用後1時間は横にならないことを勧めています。深夜の性行為後や長時間のフライト中などでも、薬を飲んですぐ眠ってしまわないよう注意しましょう。
引用 – CDC – Doxy PEP for Bacterial STI Prevention
旅行中は光線過敏症による日焼けに注意する
ドキシサイクリンには、皮膚が紫外線に敏感になる光線過敏症という副作用があります。通常より短時間の日光曝露でも、強い日焼けのような症状が出ることがあります。特に、ビーチリゾートや東南アジアなど日差しの強い地域、高地でのアウトドアを予定している場合は注意が必要です。Doxy-PEPを服用した際は、日焼け止めを使用し、帽子や長袖などで強い直射日光を避けるようにしましょう。
引用 – CDC Doxy PEP for Bacterial STI Prevention
鉄・カルシウム・マグネシウムなどとの飲み合わせに注意する
鉄・カルシウム・マグネシウムなどはドキシサイクリンと結合し、薬の吸収を低下させる可能性があります。 CDCでは、乳製品、制酸薬、鉄・カルシウム・マグネシウムを含むサプリメントなどとは、ドキシサイクリンの服用から少なくとも2時間程度あけるよう案内しています。旅行中にマルチビタミンやミネラルサプリ、胃薬などを使用する方は、Doxy-PEPと飲むタイミングが重ならないよう確認しておきましょう。
引用 – CDC Clinical Guidelines for the Use of Doxycycline
渡航先への医薬品持ち込みルールを確認する
処方されたドキシサイクリンを海外へ持参する場合は、渡航先の医薬品持ち込み規制を事前に確認しておくことも重要です。 医薬品の持ち込み可能量や必要書類は国によって異なり、薬(例:医療用麻薬など)によっては処方箋の写しや英文の医師証明書などを求められる場合があります。できれば薬は元の包装・処方された状態で持参し、必要な旅行日数に応じた量を準備しておくと安心です。渡航前には、各国の大使館・領事館や税関などの最新情報を確認しましょう。
Doxy-PEPだけですべての性病を
予防できるわけではない

Doxy-PEPは、梅毒・クラミジア・淋菌などの細菌性性感染症のリスクを下げる方法ですが、すべての性感染症を予防できるわけではありません。海外旅行・出張時の性病予防では、Doxy-PEPだけに頼らず、感染症ごとに適した予防方法を組み合わせることが重要です。
HIV予防にはPrEPという別の方法で予防
Doxy-PEPではHIV感染を予防することはできません。HIV予防には、感染リスクのある性行為の前から抗HIV薬を服用するPrEP(曝露前予防)という方法があります。適切に服用することで、性行為によるHIV感染リスクを大幅に低下させることができます。海外で新しいパートナーとの性行為が想定される場合には、Doxy-PEPで細菌性性感染症、PrEPでHIVを予防するというように、それぞれの感染症に応じた対策を検討します。
ヘルペス・HPVなどはDoxy-PEPでは予防できない
Doxy-PEPで予防効果が期待されるのは主に細菌性性感染症であり、性器ヘルペスやHPV(ヒトパピローマウイルス)などのウイルス感染症には予防効果がありません。 特にヘルペスやHPVは、性器周辺の皮膚や粘膜の接触でも感染するため、コンドームを使用していても完全に防ぐことはできません。
コンドームやワクチンも組み合わせて予防
性感染症予防では、Doxy-PEP・PrEP・コンドーム・ワクチンを組み合わせることで、より幅広い感染症への対策ができます。コンドームはHIVやクラミジア、淋菌などの感染リスクを下げる基本的な予防方法です。また、HPVにはHPVワクチン、B型肝炎にはB型肝炎ワクチンという有効な予防手段があります。海外旅行や長期出張の前には、自身のワクチン接種歴も含めて予防方法を確認しておくとよいでしょう。

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Doxy-PEPを使用していても性病検査は必要
Doxy-PEPを適切に使用していても、性感染症の感染リスクをゼロにすることはできません。 また、Doxy-PEPでは予防できないHIVやヘルペスなどに感染している可能性もあります。さらに、クラミジアや淋菌は咽頭や直腸では無症状のことも多く、症状だけで感染の有無を判断することは困難です。旅行・出張中に感染リスクのある性行為があった場合には、帰国後に適切なタイミングでクラミジア・淋菌・梅毒・HIVなどの検査を受けることが重要です。

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海外旅行・出張前に性病予防を
準備したい方へ
海外旅行や海外出張では、滞在中に新しいパートナーとの性行為がある可能性もあります。「現地で心配になってから対処する」のではなく、渡航前にDoxy-PEPを準備しておくことで、梅毒・クラミジア・淋菌などの細菌性性感染症に対する予防策をあらかじめ持っておくことができます。
当院では、海外旅行・出張前のDoxy-PEP(ドキシペップ)の相談・処方に対応しています。性行為後できるだけ早く、遅くとも72時間以内にドキシサイクリン200mgを服用する方法について、服用方法や副作用、旅行中の注意点まで説明したうえで処方します。旅行中に必要となる可能性を考え、出発前に余裕をもって準備しておくことをおすすめします。

渡航前に一通り確認したい方に向けた検査
東京検査クリニックでは、海外渡航者向けに検査プランを用意しています。HIV・梅毒・B型肝炎・淋菌・クラミジアを全て即日で迅速検査を行い当日中に結果をお伝えします。
性病予防薬Doxy-PEPは現在罹っている性病を治療するものではないため、出国前に検査で確認しておくとより安心です。
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まとめ|海外旅行・出張前に自分に合った性病予防を準備しておこう
海外旅行や出張中の性感染症リスクに備える方法として、Doxy-PEPは梅毒・クラミジア・淋菌などの感染リスクを下げる選択肢のひとつです。一方で、HIVやヘルペスなどDoxy-PEPでは予防できない感染症もあります。コンドームやPrEP、ワクチン、帰国後の性病検査なども組み合わせながら、渡航前に自分に合った予防方法を準備しておくことが大切です。
記事監修:島田航 泌尿器科専門医
2018年東京科学大学(旧東京医科歯科大学)医学部を卒業後、東京科学大学、JAとりで総合医療センター、土浦協同病院、神栖済生会病院にて泌尿器科を歴任。性感染症外来・泌尿器科外来に従事。
所属学会:日本泌尿器科学会/日本生殖医学会/日本泌尿器内視鏡ロボティクス学会/日本産業衛生学会
▪️参考文献
1)Luetkemeyer AF, Donnell D, Dombrowski JC, et al. Postexposure Doxycycline to Prevent Bacterial Sexually Transmitted Infections. N Engl J Med. 2023;388(14):1296-1306.
2)Molina JM, Charreau I, Chidiac C, et al. Post-exposure prophylaxis with doxycycline to prevent sexually transmitted infections in men who have sex with men: an open-label randomised substudy of the ANRS IPERGAY trial. Lancet Infect Dis. 2018;18(3):308-317.
3)Molina JM, Bercot B, Assoumou L, et al. Doxycycline prophylaxis and meningococcal group B vaccine to prevent bacterial sexually transmitted infections in France (ANRS 174 DOXYVAC): a multicentre, open-label, randomised trial with a 2 × 2 factorial design. Lancet Infect Dis. 2024;24(10):1093-1104.
4)Stewart J, Oware K, Donnell D, et al. Doxycycline Prophylaxis to Prevent Sexually Transmitted Infections in Women. N Engl J Med. 2023;389(25):2331-2340.
5)Sokoll PR, Migliavaca CB, Döring S, et al. Efficacy of postexposure prophylaxis with doxycycline (Doxy-PEP) in reducing sexually transmitted infections: a systematic review and meta-analysis. Sex Transm Infect. 2024.




